眼の病気 4. 緑内障
緑内障(りょくないしょう) その1
緑内障は眼科医にとって、わからないことが多く難しい病気です。
・ ここでお話する内容も沢山あります。思いついたまま、すこしずつ書き足していって、修正しながら作り上げていきます。
☆ 内容の目次
・ 緑内障 その1
1) 緑内障はどういう病気でしょう
2) どういう緑内障があるのでしょう
・開放隅角緑内障と閉塞隅角緑内障
・急性緑内障 : 目が痛い、頭が痛いと緑内障?
・ 緑内障 その2
3) 緑内障の目薬
4) 緑内障の手術
・ 緑内障 その3
5) 緑内障は目がみえなくなるの?
6) 緑内障はなおらない、て本当?
緑内障は手術ができない?
7) 眼圧はどういうもの
8) 緑内障の患者さんに使ってはいけない薬
【 緑内障の中に、赤ん坊や若い人がなる、
生まれつきの緑内障がありますが、ここではふれません。】
(1) さて、緑内障とはどういう病気でしょうか。
・ 緑内障というのは、ものを見る上で大事な働きをしている、目の神経( 視神経 )が悪くなって、視野が狭くなる病気です。
( これに付け加えて、眼科医が見て、緑内障としての特徴的な状態があることが必要です。
また、眼圧を下げると進行が抑えられるのも緑内障の特徴の一つです。
ただしこれは医者が診断をする上で問題となる話で、患者さんは考えなくて結構です。 )
見える範囲をはかると( 視野検査のことです )、目の神経( 視神経 )が悪くなったところが見えなくなっています。
ほっておけば少しずつ見えない場所が広がっていきますので治療が必要です。
(2) どういう緑内障があるのでしょうか。
・原因がわかっているのものとして
目に他の病気があるため、眼圧が正常よりも高くなり、それがもとで緑内障になる場合があります。
これは少し特殊な話ですので、ここでは触れません。
☆ 一般に大人の緑内障には二種類あります。
40歳ごろから増えてくる普通のものと、お年寄りの女性に多い、急性緑内障です。
@ まず、最初は普通の緑内障のお話からはじめましょう。
※ ここで普通の緑内障と言っているのは正確には、
開放隅角緑内障 というもので、次の二つがあります。
原発開放隅角緑内障
( げんぱつかいほうぐうかくりょくないしょう )
正常眼圧緑内障
( せいじょうがんあつりょくないしょう )
この二つはなんで病気になるのか、確かなことは、わかっていません。
・ 昔は眼圧が正常範囲よりも高くなるのが緑内障と考えられていました。
( 原発開放隅角緑内障 )
・ 最近では、眼圧が正常範囲でも緑内障になることがわかってきました。
日本人では多いタイプと考えられています。
( 正常眼圧緑内障 )
二つの区別は、ここでは考える必要はありません。
・10 代、20 代でも全くないわけではありませんが、通常 30 代後半から病気が始まることが多いようです。
一応、40歳を目安に考えますが、それ以降の年代では、20人に1人が緑内障に関連した病気と言われています。
※ かなり多いのですが
緑内障は症状がないので気がつかないのです。
★ いつも緑内障の患者さんに最初に説明するお話をこの後に書いてみます。
「これは普通の緑内障( 開放隅角緑内障 )の説明です。」
・ あなたの眼は緑内障という病気になっています。
・ 緑内障というのは、ものを見る上で大事な働きをしている、目の神経( 視神経 )が悪くなって、視野が狭くなる病気です。
めずらしいものではなく、40歳以降になると非常に多くなる病気で、20人に1人は緑内障と言われています。
・ 自分ではなにも症状がないので、知らないでいることが多い病気です。
人間ドックで見つかるか、たまたま他の病気で眼科にかかって、緑内障とわかる方がほとんどです。
・ 目の神経がなぜ悪くなるのか、本当のことはわかっていません。
・ 見える範囲をはかると( 視野検査のことです )、目の神経( 視神経 )が悪くなったところが見えなくなっています。
・ ほっておけば少しずつ見えない場所が広がっていきます。
・ 進行はゆっくりですが、10年先、20年先のことを考えて、なるべく悪くならないように、進行を抑える治療をします。
※ ここから少し番外の説明をします。
( 目は外から入ってきた光を感じることができます。光を感じているのは視細胞という目の神経の一部ですが、感じた光をさらに頭の中の脳に連絡していく神経もあります。
目から伝えられた光の情報は、頭の中で、脳の働きによっていろいろな処理をして、実際にわれわれがものを見ている感覚になるわけです。
ですから目から頭までをつないでいる、目の神経が悪くなると、頭の中へ情報が伝えられず、見えない部分ができてくるわけです。 )
また患者さんへの説明に戻ります。
・ 治療は、まず目薬でします。
目ぐすりは眼圧を下げるくすりを使います。
※ 眼圧は眼球の硬さですが、血圧のように数字で表します。
正常の眼圧は、10 から 20 の間 です。
・ 治療前の眼圧はひとそれぞれで、高い方、低い方がいます。
眼圧は日によっても季節によっても違いますし、朝夕でも違います。
・ しかし、その人の大体の 基準の眼圧 がありますので、それを 少しでも低い眼圧になるように下げることが治療になります。
( 緑内障その3 、で眼圧について説明してあります )
・ 緑内障という病気になぜなるのかは、わかっていませんが、
眼圧を下げると、病気の進行が遅くなることはわかっています。
・現在できる治療は、眼圧を下げることだけです。
・普段の眼圧が20を超えている方は、目薬で15ぐらいまで下げます。
元々、眼圧が低くて、16ぐらいでしたら、目薬で12ぐらいまで下げることが治療になります。
中には最初から12ぐらいの低い眼圧の方もいます。この場合も、目薬で眼圧をさらに下げることを考えることもあります。
( 治療する前から、眼圧が20以下の方は、正常眼圧緑内障 という病名になります。)
・ どこまで下げたら良いのかは、人によって違います。
・ 治療中の眼圧がいくつだから、良いとか悪いとか、単純には言えません。
( 例えば、同じ 15 という眼圧でも、ある人にとっては治療効果がある、十分低い眼圧であっても、他の人では、この眼圧をもっと下げなくてはいけない場合もあるのです。 )
個人個人でどこまで下げるかという目標の眼圧は異なります。
病気の進み具合も関係します。
・ 治療を続け、何年か経過を見て、視野の悪化がどの程度進むかを見ながら、眼圧をどこまで下げたら良いのか考えて行きます。
・ 目薬は毎日点眼する必要があります。
少し面倒ですし、最初のうちは忘れることもありますが、慣れれば大丈夫です。
・ 目薬の種類は何種類もありますが、普通、最初は1つの目薬から始めます。
眼圧の下がり具合を見ながら、2種類、3種類ぐらいまで増やすことがあります。
・ 目薬には副作用のあるものもあります。
特に注意が必要なのは、喘息と言われている方です。
めぐすりをさすと、喘息が誘発されることがあるからです。
薬を処方する前には必ず喘息の持病があるかどうか患者さんに確認します。
・ 治療が安定すれば、2〜3カ月に1回ぐらいの受診で経過を見ていきます。
視野検査は6か月に1回行うのが原則ですが、軽い方は9か月〜12か月に1回ぐらいのこともあります。
・ 急に悪くなる病気ではありませんから、短期間の経過であわてることはありません。
治療をしないでほったらかしにするのが一番いけません。
・ 目薬で十分に眼圧が下がらない場合や、病気が進行している方 ( 特に若い方 )では点眼治療をしながら、手術治療を考えていくこともあります。
・ 手術も眼圧を下げるために行います。
・ 手術の効果はすべてで有効とは言えませんが、他に方法がない場合には、積極的に手術を考えていく必要があります。
☆ このような説明を、一度にすべての内容というわけではありませんが、初めての患者さんにすることにしています。
A 次にもうひとつの種類の緑内障のお話をします。
この緑内障は、正確には
閉塞隅角緑内障( へいそくぐうかくりょくないしょう )と言います。
この中には急性閉塞隅角緑内障と
慢性閉塞隅角緑内障の二つがあります。
☆ ここでは、急性閉塞隅角緑内障のお話をします。
・さて、目が痛いとか、頭が痛いという時に緑内障ではないですか、と言って受診される方がいます。
眼科医以外のお医者さんも同じで、そのような紹介をしてくることがあります。これらの大半は緑内障ではありません。
・まず第一に、このような症状は普通の緑内障( 開放隅角緑内障 )では見られません。
痛みが出るのは、急性閉塞隅角緑内障の症状です。
急性緑内障はあまり多くありません。
また、40〜50歳までの若い方、目の痛みがあっても、普通の生活ができているような方であれば、このタイプの緑内障ではないと言ってもいいと思います。
・でも、誤解をさけるために気をつけるポイントは、眼科医以外の方には、なかなかわかりません。
☆ これを次にもう少し詳しく説明します。
・ 最初に言ったように、普通の緑内障はなんの症状もありません。
・ 目が痛くなったり、頭が痛くなるのは
急性緑内障( 急性閉塞隅角緑内障 )です。
これは 突然眼圧が極端に高くなる ために症状がでるわけです。
・他の症状としては、吐き気があり、実際に嘔吐してしまうこともあります。
ですから、患者さんの病気が緑内障であることに気がつかないで、
脳外科の検査をしたり、消化器の検査や治療をすることがよくあります。
・ 救急外来でも気がつかない ことがよくあります。
・ これの困った点は、目の病気であることに気がついてすぐ治療をすれば、視力は元に戻り障害を残しませんが、
治療が1日遅れると、回復できなくなり、失明してしまうことです。
・急性緑内障になるのは、一般的には60歳過ぎの方で、女性が多いです。
元々の、自分の目のかたちが病気になりやすいために起こります。
高齢者で頭痛、吐き気がある時は目を見てください。
急性緑内障なら、白目が赤くなっていますし、目も見にくくなっています。
ライトで照らすと、瞳が広がっているのがわかることもあります。
・ 食事もとれずぐったりしている方がほとんどで、目の訴えをすることを忘れていることもありますので注意が必要です。
・ また、老人施設に入っている高齢者の方が急性緑内障を起こすことがあるのですが、気がつかれずに時間がたって、回復できなくなることを時々経験します。
自分の意思をうまく伝えられない方が多いので、なかなか発見が困難です。
急に食欲がなくなった場合は要注意と思います。
やはり、目を見てください。赤くなって、瞳が大きく広がっていたら、すぐに眼科を受診させてください。
※ 病気を起こしやすいかどうか、どうすればわかるのでしょうか。
残念ながら、眼科医が診察する以外には方法はありません。
普通の緑内障のチェックも含めて、中年以降の方は一度目の検査をした方が良いでしょう。
緑内障 その2
(3) 緑内障の目薬
普通の緑内障( 開放隅角緑内障 )は、まず目薬で治療をします。
40年前は、目薬の種類は2種類しかなく、しかもあまり効きませんでした。
しかし、最近では非常に多くの種類の目薬が開発され、眼圧を下げる働きも強くなって、治療が昔にくらべて楽になっています。
普通良く使われているのは3種類です。
他にも5、6種類ぐらいの目薬があり、それらを組み合わせて治療していきます。
最初は1種類から始めて、経過によっては3種類ぐらいまで使うこともあります( 3本の目薬 )。
・あまり目薬の数が増えると点眼するのが大変ですから、このぐらいが普通は限度です。
※ 最近は配合剤と言って、一つの瓶の中に、2種類の点眼薬が一緒に入っているものを良く使います。
・ 患者さんにとっては、目薬をさす回数を減らすことが出来ますし、目薬の中に含まれる、防腐剤などの副作用を少なくすることもできます。
・ ですから、3本の目薬を使っている方の場合、薬の内容としては4種類使っていることもよくあります。
☆ 目薬の回数は1日に1回点眼するもの、2回するもの、3回するものがあります。
当然、回数が少ない方が楽ですし、忘れにくくなります。
・ 一番最初に使われるのは、1日1回点眼する薬が一般的です。
・ 朝点眼するのか、夜点眼するのかは、薬によっても違いますので、医師の指示に従ってください。
・ 目薬は目の中 ( 正確に言うと目の表面です ) に1滴入れば十分です。
目の表面にはあまり沢山の水分は入りません。
沢山目薬をさしても、それだけ効くわけではありません。こぼれてしまうだけです。
1滴でも多すぎるぐらいです。( もっとも涙で薄まる場合もないわけではありません、まあ多くても2滴まででしょうね )
・ 目薬をさした後、数分間目を閉じてください、とか、下まぶたの目がしらを押してください、とか説明してあるものもあります。
目薬は、目がしらにある涙点を通じて、のどの方に流れていきますが、そこで吸収され、体への副作用を起こすことを抑えるために言われていることです。
目薬の種類によっては、たしかに正しいことですが、面倒な場合はあまり気にしないでもいいですよとお話しています。
・ もう一つ、目薬を2種類点眼する時は、間隔を5分間あけてください、と薬局では説明されます。
続けて二つの目薬をさすと、効果が薄くなってしまうためですが、これも大変なら2,3分でいいですよと私はお話ししています。
目薬は毎日使うものですから、あまり神経質になるよりは、大体でやっていただく方が、続けるのが楽なように思います。
気をつけるのは、忘れないことと、目の中にしっかり入れることです。
意外と、目の中にきちんと入っていないことがあります。
目薬をうまくさすのは、なかなか難しいことです。
お年寄りでは、できれば、まわりの方が点眼してあげるのが一番良いと思います。
★ 薬には副作用があります。目薬の副作用で多いのは、目が赤くなる( 充血 )ことです。
くすりによっては最初から赤くなりやすいことがわかっているものもあります。程度によって、そのまま続けるかどうか考えます。
どんな目薬でもありうる副作用は、アレルギー反応です。
目が赤くなって、ごろごろしたり、まぶたが赤くただれたり、白目が水ぶくれになったりすることがあります。
これは薬のアレルギーだけでなく、目薬の中に入っている、防腐剤のようなものに反応していることが多いようです。
いずれにしても、そのような異常があったら、目薬をやめて、早めに病院へ連絡してください。
・ 緑内障の目薬で今、一番よく使われる目薬 ( キサラタン・ラタノプロスト、トラバタンズ・トラボプロスト、タプロス、ルミガン・ビマトプロスト、ザラカム・ラタチモ、デュオトラバ・トラチモ、タプコム、ミケルナ、という名前です ) では、
まつ毛が太くなって伸びてくる副作用があります。人によっては邪魔だという方もいます。( 逆に、美容目的で売られています。)
もう一つ困る副作用は、下まぶたの皮膚が、くまができたように黒ずむことです。女性の方は気になるようです。
これを防ぐには、まず目の周りにこぼれた目薬を軽く拭きとってください。
そのあと、目をつぶって、目のまわりの顔を洗うといいと思います。
皮膚についた薬を洗い流すということで、もちろん、目の中は洗ってはいけません。
お風呂に入る前に点眼して、お風呂で顔を洗うように説明されることもあります。
ただし、お風呂に入らない日でも、目薬は忘れずにさしてください。
・ もう一つ良く使う目薬で、気をつけなくてはいけない体の副作用があります ( チモプトール・チモロール、ミケラン・カルテオロール、ハイパジール・ニプラジロール、ミロル、ザラカム・ラタチモ、デュオトラバ・トラチモ、タプコム、ミケルナ、コソプト・ドルモロール、アゾルガ、アイベータという名前の目薬です )。
今までに喘息という病気がある患者さんには、この薬は使えません。
目薬で喘息が起きる危険があるからです。
目薬を使っている途中から喘息になる方もいますので、必ず眼科医に伝えてください。
・ 目薬は封を切らなければ、普通2,3年有効です。びんに有効期限が数字で書いてあります。
封を開けてしまうと、薬局では1か月以内に使ってくださいと言われます。
点眼びんの先が汚れて、くすりが不潔になってしまうためです。
でも、緑内障の目薬は高いものが多いので、私は2か月ぐらいは大丈夫ですよとお話します。
点眼びんの先端が不潔にならないように、注意して使ってください。
(4) 緑内障の手術
緑内障は古くから手術をしています。ただし、近代的な手術と言えるのは40〜50年ぐらい前からでしょうか。
それ以後、色々な手術の方法が開発されてきました。
しかし、残念ながら、今でも、これが一番と言える方法はありません。それぞれに問題点があります。
現在は、患者さんの年齢や病気の状況に合わせて、手術方法を選択していきます。
・ さて、緑内障には二種類あることを、これまでにも説明してきました。この違いによって、手術法、手術の考え方が違います。
☆ 閉塞隅角緑内障( へいそくぐうかくりょくないしょう )
この緑内障では治療は基本的に手術が必要になります。その点で、開放隅角緑内障とは異なります。
閉塞隅角とは隅角( 目の中で、水の流れる出口のところです )がつまっている( 狭くなっている )という意味ですから、それを解消してあげる必要があります。そのために手術をします。
・ 以前はメスで切る手術しかありませんでしたが、最近はレーザーを使うことが多くなっています。
急性緑内障でもまずレーザーを考えるのが一般的です。
・ ただし、レーザーの手術をする代わりに、白内障の手術をすることも、最近は増えてきました。
白内障手術( 眼内レンズ手術 )をすると、狭かった隅角が広がり、閉塞隅角緑内障では治療の効果が出ます。
手術の適応には色々な条件がありますが、一つの有用な手段になっています。
・ これらの手術を行った上で、なおかつ残る緑内障( 開放隅角緑内障の要素 )の治療を、目薬で追加することもあります。
☆ 開放隅角緑内障( かいほうぐうかくりょくないしょう )
これまで、普通の緑内障として説明してきたものです。
これはまず目薬で治療を始めることを、お話してきました。
・ しかし、薬では十分に眼圧が下がらず、視野の悪化を抑えることができない場合、手術を考えます。
特に若い患者さんでは、これからの人生が長いわけですから、できるだけ将来にわたって生活に困らないようにするためには、眼圧をできるだけ低くしておく必要があります。
そのために手術で眼圧を下げるわけです。
・ 目薬も手術も眼圧を下げる目的で行うことは同じです。
手術は、うまくいけば目薬に比べて眼圧が大きく下がりますので、目薬では眼圧が十分下がらない場合は手術を考えなくてはいけません。
・ 眼圧を下げるための手術法はいくつかの種類があります。
眼圧が上がるのは、目の中にある水の流れが悪くなって、水がたまりすぎてしまうことが原因です( 緑内障その3 : 眼圧 )。
・ 一番よく行われているのは、この目の中にたまっている水を、眼球の外に移動させるために新しい流れ道を作る、いわゆるバイパス手術です。
眼球の外と言っても、結膜( 白目 )の下を通じて目の奥の方に流すわけで、直接目から水が涙のように外に出てくるわけではありません。
・ バイパス手術は、かなり前から行われてきた方法ですが、数十年前は、手術の効果がうまく出るのは、半分以下という低い成功率でした。
その後、薬物を併用する方法が生まれ、成功率はだいぶ上昇しました。
それでも、長い経過で見ると、7〜8割ぐらいの成功率にとどまっています。
また、手術がうまくいっても、術後の合併症という問題を起こす危険もあります。
★ 合併症で問題になるのは、
目の中にばい菌が入る、感染です。
眼圧がよく下がっている人ほど危険が高いので、痛しかゆしです。
また、手術の後に、少し視力が落ちる場合もあります。
・ですから、白内障の手術のように、ほぼ 100% うまくいって、術後の問題もごくわずか、というものに比べると、緑内障の手術は理想的な治療とは言えません。
※ でも、視力や視野を守るために、手術は、やはりなくてはならない治療法です。
医師と患者さんがよく話し合って、手術をするかどうか考えていかなくてはいけません。
我々にとっても、なかなか難しい決断であることは間違いありません。
もうひとつの問題は、手術は普通1週間近くの入院が必要になることが多いので、働き盛りの患者さんでは、休みを取りにくいということがあります。純粋に医学的な判断だけで考えるわけにはいかず、難しい問題です。
☆ 最近の新しい緑内障手術
ここ数年新しい手術方法がいくつか開発されています。
以前から行われていた水の流れ道の通りをよくする方法も新しい器械によって簡便な方法に改善されています。
目にあたえる負担も軽くなっています。
ただ、まだ手術の成績、長期経過はわかっていません。新しいから良いとは言えません。
これらの手術法の中で、今後も続けて行えるものがあるかどうか、まだはっきりとしたことは言えません。
経過を見ていきましょう。
・ 特殊な方法として、重症の緑内障に行う、プラスチックの器具を目の表面に縫い付ける手術法( インプラント手術 )も行われています。
これについても今後の経過観察によって、長期的に問題ないのか見ていく必要があります。
どのような手術方法を選択するかは患者さんの状況によって違います。
医師の説明を聞いてください。
※ 少し特殊な手術法としては、目に他の病気があるため、眼圧が極端に上がり、痛みが強い時に行う手術があります。このような場合、視力はほとんど見えなくなってしまっていることが多いので、特別な方法で手術をします。視力を守る手術ではありませんので、患者さんにとっても、医者にとってもうれしい治療とは言えませんが、苦痛をとるためにはやむをえないものです。
緑 内 障 その3
(5) 緑内障と聞いて患者さんがよく言うことに、
緑内障は目が見えなくなる恐い病気ですね、というものがあります。
目の病気で最悪の結果が失明であることは言うまでもありません。
緑内障は確かに進行して末期になると失明につながる病気です。
しかし、ほかの病気でも失明することはあります。
問題なのは病名ではなく、病気の進行程度です。
今、当院で治療している緑内障患者さんは、1000人以上いると思いますが、10年間の間で片目が見えなくなってしまった方は、数人だと思います。
重要なのは、治療を始めた時の患者さんの年齢と、緑内障の進行程度です。
80歳ぐらいで初期の緑内障なら、経過をみるだけで、治療をしないこともあります。
我々が外来で見ていて、治療が難しいと感じる患者さんは1割弱です。目薬で治療をしていれば、大半の方は生涯問題なく過ごせると言えます。
(6) もうひとつ患者さんからよく聞く言葉は
緑内障はなおらない病気だと聞きました、
あるいは緑内障は手術ができないんでしょう、ということです。
・ 病気の中には、ある程度治療をした後、もうこれでなおりました、と言えるものがあります。
これに対し、高血圧や糖尿病の治療のように、毎日薬を飲み続けなくてはいけない病気もあります。
緑内障も同じで目薬を毎日続ける必要があります。
そういう点から治らない病気、と言うのかもしれませんが、治療法がないわけではありませんし、病気の進行を抑えることができるわけですから、正確な言い方ではありません。
医者はこういう状態のことを、病気をコントロールする、と言っています。
・ 手術について言うと、緑内障は昔から手術をしていますし、
最近は手術法が改善されて以前よりも成績が良くなっています。
ただし、基本的には普通の緑内障( 開放隅角緑内障 )では、まず点眼治療を行い、点眼だけでは効果が不十分なときに手術をするので、患者さんの中で手術のイメージがあまりないのかもしれません。
・ 逆に白内障では手術以外の治療法がなく、手術をすればほとんどなおるので、余計に緑内障には反対のイメージがあるのだと思います。
(7) 眼 圧 ( がんあつ )
眼圧は眼球( めだま )の硬さです。
・ 目はピンポン玉のような形をしていますが、ゴムボールのように少し軟らかいのが普通です。
ボールに空気を沢山詰めると硬くなりますが、それが眼圧が高い状態です。
逆に空気がなくなるとべこべこになりますが、これは眼圧が低いということになります。
・ 正常の眼圧は数字で 10 から 20 の間です。
普通の緑内障では、眼圧は正常の場合と、高い場合があります。
高いと言っても40以下のことがほとんどです。
それに対し、急性緑内障では眼圧がいきなり60以上に上がりますから、強い症状が出るわけです。
・ 目が正常の眼圧を保っているのは、目の中に常に一定の量の水があるためです。
ボールの空気の代わりに、目は水で圧を維持しているわけです。
☆ 目の中には水が湧き出る、泉のような場所があります。ここから出てきた水は、目の前の方に流れていって、水の出口である、隅角という場所を通って、眼球の壁の表面にある血管の中に流れていきます。
この水の流れが順調にいっている場合は、眼圧はいつも正常範囲です。
★ 緑内障では、隅角での水の流れがうまくいかなくなるため、目の中に余分な水がたまってしまい、眼圧があがるわけです。
(8) 緑内障の患者さんに、使ってはいけない薬
色々な飲み薬に、緑内障の方は注意してください、とか緑内障のある方には使わないでください、と書いてあることがあります。
かぜ薬、泌尿器科でもらう おしっこの薬、精神科でもらう薬などに多く見られます。
胃カメラをする前に使う注射薬でも同じようなことを言われます。
これは、急性緑内障になりやすい方に関係したことで
( 閉塞隅角緑内障 と言います)、
普通の緑内障の方には関係ありません。
( 開放隅角緑内障 と言います)
内科や泌尿器科のお医者さんから、あなたには緑内障という病気があるから、この薬は使えませんと言われることがあります。
眼科医以外には二つの緑内障の区別はつきません。
病院や薬局で聞かれたら、かかっている眼科に問い合わせてください。